Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

アルファホーレス
Alfajores
二枚の生地に甘い中身を挟む、南米の日常の菓子
焼き菓子 / アルゼンチン

同じアルファホールでも、スペイン南部のものは蜂蜜と木の実を練った棒、南米で親しまれるものは甘い詰め物を焼き生地で挟む菓子です。複数形をアルファホーレスといいます。共通する名が海を隔てた菓子を結ぶ一方、外側を何で作り、中に何を入れるかは各地で大きく変わりました。
蜂蜜の棒と、二枚の皮
メディナ・シドニアの棒形は、熱した蜂蜜に、煎って砕いたアーモンド、ヘーゼルナッツ、パン粉、小麦粉、香辛料を合わせ、成形して糖液と砂糖で仕上げます。二〇〇五年公表の保護地理的表示の規則にも、この材料と工程が記されています。
同じスペインでもムルシアでは、蜂蜜、アーモンド、ヘーゼルナッツ、パン粉、柑橘の皮、香辛料などのペーストを、ウエハース状の薄いオブレア二枚で挟みます。クリスマスに食べる型で、オブレアにカラバカの十字を表す伝統もあります。挟む形は南米だけのものではありません。ただ、その薄いオブレアと南米の焼いたビスケット、蜂蜜と木の実の中身と乳の詰め物では、口にしたときの構造が違います。
南米では二枚以上の焼き生地を重ねる型が発達しました。アルゼンチンの二〇〇一年の食品法令では、焼き生地をジャムや乳の甘味などで接着し、被覆は任意と定義しています。棒形を含むスペインの用法に対し、アルゼンチンでは「焼いた皮で甘味を挟む」という構造が製品の輪郭になっています。
名に重なる二つの語源
これほど姿の違う菓子を結ぶ言葉の来歴にも、複数の筋があります。アルゼンチン政府の紹介などで広まるのは、アンダルシア経由のアラビア語系 al-hasú「詰め物」説です。一方、スペイン王立アカデミーの辞典は、ヒスパノ・アラビア語 fašúr、さらにペルシア語 afšor「果汁」へさかのぼらせます。
言語学者フェデリコ・コリエンテは、アンダルシア・アラビア語の「詰め物」に近い形が alajú により忠実に残り、ペルシア語系の fašúr と混同されたと論じています。アラビア語系という共通項はあっても、意味と経路は一つに確定していません。
フランシスコ・デリカードの物語『ラ・ロサーナ・アンダルーサ』(一五二八年)には、主人公が祖母に習った料理を挙げる場面に「rosquillas de alfaxor」が登場します。輪形の菓子を指した古い語形です。この名は、現在の二枚挟みが定着する以前から、輪形を含む異なる菓子を指してきました。
生地・詰め物・被覆が作る違い
南米の型では、焼いた生地が柔らかな中身を支え、持ち運べる形にします。生地は小麦粉中心のものに加え、マイセナと呼ぶコーンスターチを用いるものがあります。マイセナの皮でドゥルセ・デ・レチェを挟み、接合部へココナッツをまぶす型と、チョコレートで全体を覆う型とでは、最初に歯へ触れる層から異なります。
ドゥルセ・デ・レチェは乳と糖を加熱して濃縮する食品で、砂糖だけを焦がすカラメルと同一ではありません。粉の組み合わせが生地の崩れ方を変え、中身を果実の煮詰め物にすれば甘味の質も水分の状態も変わります。糖衣、粉砂糖、チョコレートという仕上げの選択も重なり、似た丸形の中に多くの組み合わせが生まれます。
アルゼンチンでは土地の産物もその違いを広げます。パタゴニアのベリー、リトラルのマテ、コルドバの果実や蜂蜜、メンドーサのワインが使われ、カタマルカにはカピア種のトウモロコシ、クージョには挽いたクルミを生地に入れる型があります。地域の材料は、皮の粉そのものにも及びます。
トウモロコシを練る型、マンディオカを合わせる皮
コスタリカ北西部でアルファホールと呼ばれるものには、煎ったトウモロコシ粉を蜜でまとめる菓子があります。中身を別の皮で挟むだけが、この名の構造ではありません。コスタリカ大学の地域調査に記録された型は、タパ・ドゥルセという含蜜糖の蜜に、煎ったトウモロコシ粉、シナモンやクローブを合わせます。煎った穀粉の香りと濃い糖が全体に混ざり、乳を挟んだ二枚の皮とは甘さを置く場所から違います。
東のカルタゴには、果実を合わせる別の記憶があります。ゴンサロ・チャコンは、後年の物語『コスタリカの伝承』で、一八三八年のカルタゴの婚礼にパイナップルとショウガのアルファホーレスが並ぶ場面を描きました。果実の酸味と香辛料をこの名の菓子に重ねる、土地の語りです。北西部の煎り粉を蜜で練る型とも、乳を挟む焼き皮とも、味の組み立てが異なります。
パラグアイでも、皮に使う粉には現代の工夫があります。アスンシオンのマデリナの一例は、トウモロコシでんぷん、マンディオカでんぷん、米粉を合わせ、卵、油脂、糖蜜、糖で生地にします。中身にはドゥルセ・デ・レチェやグアバの甘味などを選べます。マンディオカはキャッサバの呼び名。同じ根茎から得るでんぷんを使っても、一種類の粉に置き換えただけでなく、複数の粉を組み合わせた皮が作られています。
ペルーの大きさと、割れる生地
北岸のキングコングは、マンハル・ブランコと呼ぶ乳の菓子と、パイナップルの煮詰め物を層にする、大きなアルファホールの系統です。小さな個包装品とは違い、切り分けて乳と果実の層を分け合います。
南部モケグアのペンコは、卵黄を用いる生地と割れた表面が特徴です。家伝のルセット(材料の配合と作り方)を収集した研究者ロサリオ・オリバス・ウェストンの記録では、卵白と卵黄をそれぞれ十分に泡立て、ピスコ、少量の粉、膨張剤、油脂を合わせます。成形後の表面を乾かしてから焼くため、内側が膨らむと亀裂が開きます。サトウキビの蜜にクルミ、落花生、パンや菓子の粉、ココナッツを混ぜる中身から、二十世紀半ばには乳のマンハル・ブランコや、蜜と乳の合わせ型も広まりました。祝いの菓子は、移住者の好みにも応じて変わっています。
オリバスが収集した北岸トルヒーヨの十九世紀末のルセットは、粉、塩水、卵、ラードで薄い皮を焼き、蜜、パイナップル、マルメロ、乳の甘味などを挟むものでした。泡立てて表面を乾燥させるモケグアと、薄い焼き皮の北岸。菓子名の下には、工程から異なる地域の蓄積があります。
チリの薄皮に、穀粉と蜜を挟む
チリのオハラスカは、薄く焼いた挟み皮です。中身のマンハルのほかに、蜂蜜やチャンカカを使う古い系統の「コンセルバ・デ・アルファホール」があります。蜂蜜に焼き皮の粉を混ぜて煮詰め、煎ったオレンジ皮で香りをつけるもので、地方にはチャンカカや炒った粉を使う型も育ちました。
中部オイギンス州でタブリリャ、またはグアリャカと呼ぶ型は、オレンジ皮とシナモンを煮出した液へ、チャンカカ、糖、粉を加えて中身を練ります。小麦粉、水、油脂の薄皮を焼いて冷まし、中身を挟んで卵の糖衣をかけます。祭りや村の行事にも並ぶ、地域の作り手が継いできた菓子です。
サンタフェの塩味、ウルグアイの白い被覆
アルゼンチンのサンタフェでは、薄い塩味の皮とドゥルセ・デ・レチェを重ね、白いメレンゲで覆います。二枚合わせもあり、皮の塩味が甘い中身と対をなします。同市には、通称「メレンゴ」のエルメネヒルド・スビリアが一八五一年に開いた店で、ビスケットや乳の甘味を作った沿革が伝わります。この店は、薄い塩味の皮と乳の甘味を重ねる地域型の歴史を担ってきました。一八五三年の憲法制定会議が開かれたとき、参加者がこの菓子を食べたという記憶をサンタフェ市議会は紹介しています。製造者メレンゴの店史には、会議のため町へ来た人々が店の上階に滞在し、菓子を故郷へ持ち帰る場面を描いた地元作家の作品も引かれます。町へ集まった人々と菓子の記憶は、憲法制定という出来事とともに語り継がれています。二〇二四年には、市議会がこの菓子を無形文化遺産とする条例を承認しました。
ウルグアイにも、柔らかな生地とドゥルセ・デ・レチェを重ね、チョコレートや「ニエベ」という白い糖衣で覆う型があります。二枚と三枚の重ね方、被覆の選び方が、一口の甘味と食感の比率を変えます。
海辺の記憶を持ち帰る
二十世紀の大衆観光は、この菓子に土産という場を広げました。マル・デル・プラタなどアルゼンチンの大西洋岸では、ドゥルセ・デ・レチェとチョコレートの型が海辺の旅と結びつきます。ただし同地の型にもブエノスアイレスの菓子店での前史があり、土地の名が単独発明を意味するわけではありません。
風景や土地の図柄を使った箱は、旅先の名を持ち帰る器になりました。流通が広がると工場製の個包装品は売店やスーパーへも入り、手作りの祝い菓子、観光地の土産、日常の甘味が併存するようになります。
用語解説
- タパ・ドゥルセ
- コスタリカの含蜜糖。溶かした蜜を穀粉の菓子にも使う。
- マンディオカ
- キャッサバ。根から得るでんぷんが菓子の皮にも使われる。
- マデリナ
- アスンシオンでアルファホーレスを製造する作り手。粉を組み合わせた現代の一例。
- ロサリオ・オリバス・ウェストン
- ペルーの家伝ルセットを収集し、モケグアや北岸の菓子を記録した食文化研究者。
- ゴンサロ・チャコン
- コスタリカの歴史や習俗を物語に描いた著者。婚礼の菓子の場面は文学的な再現です。
- ドゥルセ・デ・レチェ
- 乳と糖を加熱して濃縮する褐色の甘い食品。南米の代表的な詰め物です。
- マンハル・ブランコ
- ペルーで菓子の詰め物に用いる、乳を煮詰めた甘味。
- マイセナ
- コーンスターチを指す呼び名。alfajor de maicenaは、それを使う生地の型です。
- オハラスカ
- チリで菓子の層や挟み皮に用いる、薄く焼いた生地。
- チャンカカ
- サトウキビ由来の含蜜糖。煮て詰め物の甘味と色を作る。
- エルメネヒルド・スビリア
- 通称メレンゴ。十九世紀半ばにサンタフェで店を営み、同市のアルファホールの歴史と結びついて伝わる作り手。
- ニエベ
- スペイン語で雪。ウルグアイのアルファホールでは白い糖衣をまとわせる型の呼び名。
- リトラル
- アルゼンチン北東部の河川沿いに広がる地域。
- カピア
- アンデス地方などで粉にして用いられるトウモロコシの一系統。
- フェデリコ・コリエンテ
- アンダルシア・アラビア語に由来するスペイン語彙を研究した言語学者。
- フランシスコ・デリカード
- 一五二八年刊の物語『ラ・ロサーナ・アンダルーサ』の著者。菓子を指す古い語形が登場する。
- 保護地理的表示
- 生産地と結びついた食品名を保護する制度。菓子一般の名称ではなく、個別の登録名と仕様に適用されます。







